11月8日はアラン・ドロンの80歳の誕生日です。
1935年生まれの彼は今年は傘寿を迎えるということですね。
あまり恵まれなかった少年時代を過ごし、インドシナ戦争にも参加して
『女が事件にからむ時』QUAND LA FEMME S'EN MELE(1956)
で映画デビューした
彼は、ルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』(1960)で人気に花咲き
特に本国より日本で高評価のこの作品で、我が国において彼の人気は高騰して
1980年頃までは彼の主演作品はほぼ途切れる事無く日本に輸入、公開され
フランスから遠く離れた東洋の国のファンを非常に大切にしていたということです。
残念ながら、映画はベルモンドと共演した『ハーフ・ア・チャンス』(1998)
で引退宣言をしているが、テレビドラマや舞台などで役者としてはまだ現役である。
2015年東京国際映画祭提携企画
「アラン・ドロン特集 唯一無二、そしてその分身」の開催で
主催者に寄せられたアラン・ドロンからメッセージ。
<アラン・ドロン メッセージ>
日本の友人の皆様
この度、アンスティチュ・フランセ日本が東京国際映画祭との提携の元、
私の特集を開催してくれることを知り、この上なく嬉しく思っています。
日本は私の俳優としてのキャリアにとって、とても大切な国であり、
すべての世代のファンの人たちが私の作品を発見、
あるいは再発見してくれることを幸せに思います。 アラン・ドロン
アラン・ドロン その経緯
アラン・ドロンの代表作としては前出の『太陽がいっぱい』(1960)や
『若者のすべて』(1960)『太陽はひとりぼっち』(1962)、
『山猫』(1963)、『地下室のメロディー』(1963)などが初期で
70年代前後でも『さらば友よ』(1968)『シシリアン』(1969)や
『仁義』(1970)『リスボン特急』(1972)、『ビッグガン』(1972)
など挙げれば何作も浮上するけれども、
彼の出演作を方向を位置づけたのは何と言っても1967年に主演した
ジャン・ピエール・メルヴィル監督の『サムライ』(1967)
それまでは『黒いチューリップ』(1964)などの颯爽とした好青年などが
似合うドロンの方向性を変えてしまった一編とも言える。
ハリウッドを目指してディーン・マーティンと共演した
『テキサス』(1966)などで夢破れ、
傷心でフランスへ帰国した彼はそれまでのイメージを払拭させて
陰のあるキャラクター、死の匂いを漂わす主人公を
演じていっそうに演技に磨きがかかる。
私生活でも当時の妻だったナタリー・バルテルミー(ナタリー・ドロン)が
彼の反対を押し切ってこの映画で女優としてデビュー、これがその後の離婚の
引き金になった事は広く知られている。
アラン・ドロン 死の美学
『サムライ』の前に完成させたロベール・アンリコの『冒険者たち』のラストでも
ギャングに撃たれて死ぬ青年をドロンは演じたが、『サムライ』以降の
彼のフィルムノワールではラストは撃たれて死ぬ役が付き纏う・・・・
(その直前に出た『世にも怪奇な物語』(1967)ルイ・マル編
「影を殺した男」でも主人公ウィリアム・ウィルソンは
壮絶な死をもって幕を閉じている)
『ジェフ』(1969)、『シシリアン』(1969)『仁義』(1970)
『ビッグガン』(1972)それ以外でも『レッドサン』(1971)や
『ショック療法』(1973)『スコルピオ』(1973)
大半の主演作でラストはドロンが死体となって転がる。
ハリウッドスターのジョン・ウェインやスティーブ・マックイーンは
映画の中ではあまり死ぬ事は少なかったが、
ドロンの映画では結末は主人公はほぼ死んで終わりを迎えた。
「死をもって償う」― この考えは日本の武士道に通じる考えである。
悪事を働いた主人公に結末は死を・・・
アラン・ドロンのシンメトリーな主張がここに垣間見える。
ジャン=ピエール・メルヴィルとドロン
ジャン=ピエール・メルヴィルとアラン・ドロンには三本のノワール
【犯罪】映画が存在するが、作品的にはこの『サムライ』が一番の高評価だけど、
フランスでは433万人を動員し大ヒットした
第二作のセルクル・ルージュ(『仁義』)を推す声もある。
ただ残念ながら、第三作の『リスボン特急』は原題のル・フリック(警官)の通り
アラン・ドロンはギャングではなく刑事に扮したので
どうも作品の切れも悪く評価も低い。
メルヴィルと組んだ名キャメラマン、アンリ・ドカエ(正確にはアンリ・ドカ)と
生み出した青白い抑えた色調の絵作りはメルヴィルカラーと呼ばれている。
それは『影の軍隊』(1970)でも実験され
『仁義』(1970)でほぼ確立されたと言われる。
ジャン=ピエール・メルヴィルは1973年8月2日、急逝。
遺作は『リスボン特急』だった。
サムライ そのストーリー
Il n'y a pas de plus profonde solitude que celle du
Samourai si ce n'est celle d'un tigre dans la jungle...
peut-etre... Le Bushido (Le livre des samourai)
「密林の中の虎の姿に似て、サムライの孤独ほど深いものはない。」
鳥籠がある殺風景な暗い部屋でベッドの上でタバコをくゆらす主人公ジェフの冒頭シーンでこの言葉が画面に重なる(この言葉はメルヴィルのオリジナルらしい)
紫煙が漂う部屋の窓の外は激しい雨が降っている。
主人公ジェフ(アラン・ドロン)は【仕事】に出かける。
トレンチコートの襟を立て、ソフト帽を深く被り暗いアパートから出て行く。
今路上に駐車されたばかりのシトロエンのドアを開け、懐から何十の鍵を付けた束を
取り出して、車のイグニッションの鍵穴にひとつずつ差して行く。
やっと合う鍵があり、何事もないように車を発進させて郊外の寂れたガレージに向かう。
ガレージの中には手慣れた男がシトロエンに偽造ナンバープレートを取り付けて
これも偽造の免許証と車検書をジェフに渡す。まだ足らないものがあるようだ。
ジェフは指を鳴らすと男は引き出しから回転式拳銃を取り出して渡して見せる。
ジェフの手から男に札束が渡されるが、ジェフは弾倉の弾丸を確認すると
コートのポケットに拳銃をしまってシトロエンでガレージから出て行く。
ここまでに会話は全くない。
そして再び真夜中にパリに戻って小奇麗なアパートの一室を尋ねる。
部屋には若い女が寝ていた「ジェフなの?」
女はコールガールのジャーヌ(ナタリー・ドロン)
ジェフはジャーヌにアリバイを頼む。
「たまには会いに来て」その言葉にジェフは反応しない。
次にジェフは行きつけのポーカー賭博をやっているホテルの一室に行き
ここでもアリバイ工作。
そしてとある高級クラブに姿を現す。
そして入るや否やすぐにトイレに行き様子を窺う
(もうこの時点で彼の手には白い手袋が)
そして店内を横切り店の奥の事務所に入ってクラブの経営者を銃で殺害する。
そこへ今しがた店内で陽気にピアノを弾いていた
ヴァレリー(カティ・ロジェ)とばったり出くわす。
さらに店内の客やバーテンダー、コンシュルジュの女が
逃げるように出て行くジェフの姿を見る。
ジェフはシトロエンを橋の上で停めると、
殺しに使った拳銃をセーヌ川に投げ捨ててジャーヌのアパートに。
午前2時、ジャーヌの情夫にわざと姿を見せて車を乗り捨て
タクシーに乗り込むジェフ。
犯行現場のクラブには大勢のパリ警察の警官が集まっていて
目撃者のヴァレリーや従業員、客も事情聴取されている。
捜査責任者の警部(フランソワ・ペリエ)が電話で部下に指揮をしている場面から
さっきのポーカー賭博場でカードを切るジェフ。そこへ警察がやってきて
ジェフに事情聴取を求められ、警察の護送車で連行される。
警察では大勢の容疑者が集まられており、目撃者の面通しが行われていた。
ジャーヌも警察に呼ばれたが、
最後にはヴァレリーがジェフが容疑者といことを否定して
ジェフは警察から戻された。だがジェフには警察の尾行がびっしりついていた。
部下からジェフの行動を逐一報告を受け指揮する警部の姿があった。
「追うんだ 逃がすなよ」
尾行してきた刑事をメトロ(地下鉄)で撒いてジェフが行った先は
鉄道の上の陸橋。そこには金髪の男が待っていた。
「殺ったぞ」「ああ、だがお前はパクられたな。だが約束の物を渡す」
男はいきなり拳銃を出して発砲してきたが、ジェフはとっさに避けて拳銃を奪う。
金髪の男は車で逃げたが、ジェフは左腕に怪我を負った。
殺しの依頼主たちは、ジェフが警察に疑われている事を知って自分たちの周囲まで
捜査の手が及ぶ事を恐れて目撃者であるヴァレリーを
ジェフに殺させる事を画策する。
また警部はアリバイが完璧すぎる事を逆手に、
アリバイ証言をしたジャーヌを偽証罪で攻めてアリバイ崩しをしようとしていた。「俺が調べれば誰でも吐くさ さあ女を攻めろ」
ジェフは負傷した傷のガーゼを紙袋に入れて舗道に捨てる
・・・これを張り込みの刑事が
拾っていく。大胆にも自分から犯行現場のナイトクラブに赴くジェフ。
カウンターでウィスキーをオーダーすると演奏中のヴァレリーにじっと視線を送る。
ヴァレリーもその視線を感じて彼女の表情がこわばっていく・・・。
そこへ目撃者のひとりであるバーテンダーがジェフに言う
「刑事が張り込んでますよ 犯人は犯行現場に戻ると言いますからね」
ジェフの部屋には合鍵を使って男が2人侵入していた。実はこれは刑事で部屋の
窓の上に盗聴器を仕掛けに来たのだ。
ナイトクラブが引けて車で帰ろうとしたヴァレリーの前にジェフが現れた。
ここでお互い初めて会話をする。
「なぜ助けた?」「なぜ殺したの?」
「仕事だからさ」
ジェフは雇い主が誰か知りたくてヴァレリーに近づいてきたのだ。
ウソの証言をした彼女なら何かを知ってると思ったから。
警部はジャーヌにも証言を強要を迫ったが、彼女は執拗に拒んだので
その目論みは成立しなかったし、ジェフの盗聴もばれてしまった。
だがジェフが自分の部屋に戻るとあの自分を襲った金髪の男が
部屋で待ち構えていた。男は残金をジェフに渡した上に、
新しい仕事を依頼してきた・・・標的はヴァレリーだった。
そして男をぶちのめすと真の依頼主の名前を聞き出した・・・・
実は依頼主はヴァレリーの恋人の男で、殺人を依頼した事がばれて
彼女を消そうとしていたのだった。
警部も徹底的にジェフを追うことに・・・捜査員50人がジェフに張り付いた。
50人の捜査員を地下鉄で巧みに巻いて車を盗んで、またあのガレージに
ガレージの男は手慣れた手つきでナンバープレートを取り換え
ジェフに車検証と拳銃を渡す・・・ただひと言「これで最後だ」
そしてジャーヌのアパートに赴いて彼女に会う
「わたしが必要?今度は何をすればいい? 助けたいの」
「もういいんだ 俺の仕事だから」
ジェフは金髪の男から聞き出した依頼主のもとへ出向いた・・・
そこへ依頼主の男が。
「仕事はやるんだろうな」「ああ、やるよ」
ジェフの手は白い手袋がはめられていた。
依頼主の男は拳銃を取り出したが、それよりも早くジェフは依頼主の男を
撃ち殺した。階下は案の定、見覚えのあるヴァレリーの部屋だった。
そしてジェフはヴァレリーのいるナイトクラブへ向かう・・・
車内で回転式拳銃の弾倉を開いて弾丸を確認する。
店内に入ってカウンターの前に立つジェフ、
演奏ステージにはヴァレリーの姿はない。
そこへあのバーテンダーが無言で近寄ってきた、
その時に奥から笑顔でヴァレリーが登場した。
だがジェフの視線はバーテンの方を見据え、白い手袋をはめるジェフに
バーテンダーの表情はこわばる。そしてゆっくり向きを変え、
ヴァレリーの方へ歩き出す。
ピアノに手をかけ無言で彼女を見つめるジェフ、
ヴァレリーは「演奏中なのよ」と諭すが
ジェフの表情は変わらない。
その時、ポケットから拳銃を取り出して彼女に向けて撃鉄を起こす。
「なぜなの?」「仕事のためさ」
そこでいきなり銃声が・・・
撃ったのはジェフではなく張り込んでいた警部たち3人の警官だった。
胸を押さえながら床にひれ伏すジェフ。
呆然とジェフの死体を見て立ち尽くすヴァレリー。
「危ないところでしたね、我々がいないと撃たれてましたよ」
と刑事がヴァレリーに話しかける。
だが警部だけは「いや、違うね」
ジェフの拳銃を取り上げると弾倉を開いた。
そこには弾丸が一発も装填されてなかったのだ。
ジェフ・コステロ サムライ
『サムライ』の主人公、ジェフ・コステロの住まいは
古びたパリのアパルトマンの1室。
家具らしきものは、ベッドとベッドサイドテーブルに電話だけ。
そして一匹のインコが鳥籠で飼っている。ジェフは人間を信用せず、
このインコだけが彼がこの世で心を許した友で、
警察が盗聴器を仕掛けに来た事も、金髪の男が
忍び込んだ事も全てこのインコの様子で看破していたのだった。
タバコは吸うが、酒はやらない。
クローゼットの上に大量のエヴィアンの瓶が並んでいる。
身だしなみには気を遣い、出て行く前は鏡で必ずソフト帽のつばを整えて外出する。
お気に入りのトレンチコートが金髪の男の銃弾で穴が空いてからは
黒のチェスターコートでキメている。
そして用心深くパリのメトロ(地下鉄)は精通しており、
大量動員された警察の尾行からも
逃れる頭の回転の良さも持ち合わしている。
仕事のパターンも決めており路上駐車のシトロエンを盗んでは
(イグニッションの配線を直結などと下劣な技は使わず大量の合鍵の束を使って
用意した鍵を一本ずつ使って盗み出す)
そして郊外の寂れたガレージでナンバープレートを交換して
ガレージの男から「道具」を受け取って仕事をこなす。
無口でほぼ無表情で笑わないサムライ・・・それがジェフ・コステロだ。
ナタリー・ドロンとサムライ
アラン・ドロンの最初の妻、ナタリー・バルテルミーとは1964年に結婚した。
婚約者だったロミー・シュナイダーとは婚約を解消しての結婚だったが、
女優になりたいナタリーはドロンの反対を押し切って『サムライ』に出演。
そして本作でも彼女の役のパトロンを演じたミッシェル・ボワロン監督の
『個人教授』(1968)で主演女優として一本立ちしたが、
ドロンのボディガードでナタリーの愛人だったという
ステファン・マルコヴィッチが殺害された事件でついに1969年に離婚が成立した。
監督: ジャン=ピエール・メルヴィル
製作: ジョルジュ・カサディ
原作: アゴアン・マクレオ
脚本: ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影: アンリ・ドカエ
ジャン・シャルヴァン
音楽: フランソワ・ド・ルーベ
アラン・ドロン
ナタリー・ドロン
フランソワ・ペリエ
カティ・ロジェ
カトリーヌ・ジュールダン
ミシェル・ボワロン
マルセル・ボズフィ
イーストマンカラー
ヨーロッパヴィスタ(1.66:1)
フランス語・モノラル
105分
日本公開1968年3月16日
(日本ヘラルド映画配給)
1967 (C) PATHE PRODUCTION-FILMEL-FIDA CINEMATOGRAFICA
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